侵入を許さないこと

 さらによくあることであるが、虐待の反復を積極的には求めないで、恐ろしいが避けられない運命として受け身的に体験し、人間関係のやむを得ない代価として甘受するという態度である。多くの被害経験者はこのような自己防衛の深刻な欠陥を持っているが、自分からそうしているのだとか、自分が選んでいるのだとはつゆ思わないようである。

親であるとか、配偶者、愛人、あるいは権威者の情緒的要求に対してノーと言うことなどは考えることもできない事態であるようだ。従って被虐待児が大人になってからも、かつて自分を虐待した者の願望と欲求とに従い続け、無際限にその許されない深い侵入を許容し続けている者は決して珍しくない。

『心的外傷と回復』ジュディス・ハーマン