過去があやふやなままでは、今の自分が何者なのかもわからない

 僕が習い事を頑張ったのは、皆さんに理想の親像を投影して、その第二の理想の親たちに褒められたかったからだ。
自分はあの人に母の夢を投影していただけだ。あの人に母を見ていただけ、……さんに自分の理想の母親になってもらいたかっただけ。恋なんて感情じゃなかった。泥酔した……さんを見て、あんなに動揺して恋い焦がれたのがそもそもおかしかった。こんなに……さんに惹かれたのは、姿かたちや、優しさ、お酒を飲んでいるところが、母を思い返させたからだ。恋なんかじゃなかった。インセストを再演しようとした反復強迫でしかなかった。
俺は……さんに自分の母親になってもらいたかっただけだったのか。母を見ていただけだったのか。
自罰をやめるためには、メンタライゼーションが必要、それでさえ足りない。セラピーを受けなければ。
僕は母と、それにもっと父のことを考えなければ。
僕は、僕自身が父に対して何を感じているのか、ずっと前からわからずにきた。わかっているつもりだったのに、本当は何もわかっていなかったんだ。今までの僕の父への感情は、母のための父への感情だった。正直な自分の思いなんて、考えたこともなかったし、感じることも許されていなかった。
こうして謎が解けていけば、……さんとも知り合いとして、意識せず、落ち着いて普通に接することができるようになるかな。中性的な気持ちで。
クロニジンの力かな。
……さんも……さんも父親ではないし、……さんも……さんも母親ではない。母親と父親を探しているようでは大人にはなれないよね。
……さんや……さんと知り合ったとき、こんな人たちが自分の父親だったら良かったのに、って何度も頭に浮かんだ。そんなんじゃ大人ではないよね。
大人にならなきゃな。大人にならなきゃ恋なんてできない。

俺は……さんに母親になって欲しかっただけだったのか。……さんに母親を投影していただけ。
この胸の苦しさ捨てたい。心臓を取り出して捨てたい。胸の寂しさ、焦り、不安、痛み、冷たい水をかけられているような焦燥感。
僕が小さかった頃の、母との幸せな記憶を……さんに映し出していただけ、……さん自身のことなんか見ていなかったんじゃないの。
だってこんなに……さんに惹かれるのって何かが異常だから。
セラピーを受けましょう。
僕は父に捨てられたのかな? 僕が父を捨てたの? 僕が父を捨てたのだと思ってきた。あんな10歳の子どもが? 10歳の頃の自分は、すでにもうとてつもなく大きくなっていたような気がする。気のせいでしょう。過去を誤解しているんだよ。信じられないな全てが。過去があやふやなままでは、今の自分が何者なのかもわからない。
 僕には……がある。でもそれはただの、甘えたい、わがままを言いたい、休みたい、人肌の温かさに触れたい、眠りたい、安心したい、好きな人に好きだと言われたい、癒やされたいという飢餓感に過ぎなくて、本物の……とは違うものだと思います。捨てられてきたから、捨てられないってどんな気持ちなんだろうって知りたいだけなのだと思います。
中学生の読書感想文みたい。成長していないんだね。
 子ども時代に受けた傷を、死にものぐるいで再現しようとしているだけ? もう一度同じ苦しみを味わおうとしているだけ?
 今現在を直視すれば、自分がどんな子ども時代を過ごしてきたのかが透けて見えるはずだ。過去を再現しようとしているのならば。
 子どもでいよう、子どもでいようとしている。大人になってはいけなかったから。
 大人になってはいけないと思っている。
 ……さんと……さんと……さんに生い立ちを打ち明けてしまって、こんなにショックを受けているのは、なぜ?
 僕のお母さんとお父さんになってもらえなくなっちゃったから?
 おれ……さんにお父さんになってもらいたかったんだ? だからこんな変な付き合い方しかできなかったんだね。それは迷惑をかけるよ。僕の父親になって下さい、なんて見つめられても、困る。
 もうお父さんとお母さんを探す旅はやめなきゃ。
 早く車に轢かれて死んだりしたいな。皆さんに迷惑をかける前に、偶発的な事故であっさり死んで、あっさりみんなに忘れられたい。